犬も食わないアレの話









 本日はお日柄もよく、四国にこっそり上陸。いざ忍び参る。







 それを何と表現すればいいのかわからない。
 勘、とでもいうのだろうか。
 生まれもっての察しの良さとこれまでの経験から養われたそれは、忍びの技の何よりも、俺を死地から救ってきてくれた。
  けれど、それもいつの間にか鈍ったのだろうか。
 

 どうした、忍びの勘。

 
 頼むから、ここから俺を救ってください。
 天井裏で半泣き状態になりながら、俺はひたすらそう願っていた。
 何故って。
 ここは四国。長宗我部の旦那の居城のはずだ。
 にもかかわらず、四国の覇者の私室にどっかりと胡坐を組み、悠然と煙管をふかすのは奥州筆頭だった。
 



 何であんたここにいるんだよ。


 勘弁してください、本当に。
 この人とかかわると命の危機には至らないまでも魂の危機に陥ったりするんですよ。マジで。




「何で、俺の部屋にてめぇがいるんだよ。」
 どうやら俺の心と四国の鬼の心は同じだったらしい。
 至極当然の質問を、これまた当然の不機嫌顔で勝手に自室でくつろぐ独眼龍に投げかける。
 奇抜な衣装を差し引いても迫力のある美丈夫に凄まれても、独眼龍はまったく動じず、つまらなさそうに部屋の主を一瞥し、再び煙管をくゆらせた。
 どうなの、その態度。
 第三者の俺が見ててもそう思う態度に、当事者である沸点の低めな南国の鬼が切れないわけがない。
「てめぇ、いい加減にしやがれよ!?人が下手に出ればつけ上がりやがって!!」
 いや、別に下手に出る必要はなかったと思うけど。
 怒って当然だから。
 抜刀寸前の勢いで怒鳴りつける鬼の旦那に
「うるせぇ。」
 独眼龍は奥州の冬並みの冷たさで一言。
 もう、なんというか。
 傍若無人もここまでいくと立派な個性だよね。
 あははは。
 遠くで何か異様な騒ぎが聞こえるけど、まあ別にいいか。
「ああん!?」
 と思うのは俺だけで、どうやら鬼の旦那は違ったらしい。
 わりと鬼の旦那はしつこいようだ。
 ある意味気が長いと言うか付き合いがいいと言うか。
「いい加減、落ち着きやがれ。まったくCOOLじゃないねぇ。」
 は、と小馬鹿にしたように独眼龍に鼻で笑われて(実際小馬鹿にしているのだろうが)、鬼の旦那の堪忍袋の緒が切れたらしい。
 天井裏にいる俺にもその音が聞こえた。
 幻聴にあらず。
「てめぇ、泣かす!ぜってぇ泣かす!!!表にでやがれ!!!!」
「暑いから嫌だ。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 何なのこの人。
 何現代っ子みたいなこといってるの。男の子なんだから外で元気よく遊んでらっしゃい。
 少しはうちの旦那方を見習って。
 本人達が暑苦しすぎて真夏の太陽さえも最近じゃあ、暑く感じられないよー?
 二人とも炎属性だし。
 ってそうじゃなくて。
 ああ、でも独眼龍の旦那、雪国育ちだから仕方がないか。確かに四国とか九州とか暑いよなぁ。
 てそうでもなくて。
 


 現実から逃げてる場合じゃないよ、俺。
 これしきのことなど我は幾度も乗り越えてきたわ、だよ、俺。

 

 流石に独眼龍のそれには鬼の旦那もいい加減、何かを諦めたらしい。
 はあ、と大仰な溜息を吐いて、どかりと座り込んだ。
「一体、てめぇは何しにきやがったんだよ?変な人形まで持ち込みやがって。」
「ああ、あれか。」
 そうやって眼帯二人組みがそろって庭先を見る。
 俺が見ざる聞かざるをしていた、その光景。
 ガシャーンガシャーンという重苦しい音と、ついでに長宗我部の兵たちの悲鳴と怒号。
 確かザビー人形とか言うそれは、時折大筒をぶっ放し、その度に石灯篭やら庭木などが吹き飛んで、キレイに整えられていた庭は結構な戦場と化していた。


 なんていうのか、とりあえず、あんなものを持ち込ませる長宗我部も長宗我部だ。
 人がいいとか言う話じゃないでしょう。
 殿もアレなら家臣もそうなのか。


「土産だ。」
 土産なのか。
「嫌がらせかと思ったぜ。」
 普通はそうだろう。
 むしろ喧嘩をうっている、とか、殺す気か、とか思いなよ。
「とりあえず、礼を言っとくぜ。」
 お礼言っちゃうんだ、鬼の旦那。
 いいのか、それで。
 庭では兵士達が二人いわく土産であるザビー人形に吹き飛ばされ、きれいな放射線を描いて池に落ちていく。
 合掌。




「で。」
「お前も大概しつこいな。」
 それには賛成だけど。
 あんたいうと理不尽な気がするよ、独眼龍の旦那。
「うるせーよ。・・・・・・・・一体全体どうしたんだよ、お前。島津の旦那は。」
 そうそう、奥州筆頭が奥州ほっぽりだして・・・・・・・・・・・・・・・って。
 

 そっちかよ。

 
 もう、公認なのか?公認なんだ?
「島津の爺なんか関係ねーよ!!」
 ああ、関係あるんだ。
 真っ赤になって怒鳴る奥州筆頭を見て、俺は生ぬるく笑った。
 耳まで赤いよ。
 わかりやすすぎる独眼龍の旦那の反応に、鬼の旦那はやめておけばいいのに悪戯心に火がついたらしい。
「何だよ、夫婦喧嘩か?」
 にやにやと親父くさい笑みを浮かべる鬼の旦那の顔面に、次の瞬間、独眼龍のふかしていた煙管がめり込んでいた。
 動体視力に自信のある俺にもその動きは見えなかった。
 ありえねぇ。
 この人、もうありえないことだらけすぎだ。
「いってー!!!!」
 ああ、痛いだろうなー、と思いつつ自業自得だよ、と心の中で呟く。
 俺なら頼まれても言わない。
 あんなこと。
 だってあの人今レベル20の挙句、無限六爪流装備してるんだよ?


 そして耳まで朱に染めて雄雄しく立ち上げり、奥州筆頭はのた打ち回る四国の鬼に告げた。




「夫婦じゃねーよ!!まだ!!!!!!」









 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、あの。
 独眼龍の旦那?
 まだって。
 夫婦になる予定なんですか、アンタ方。











中編







一言。
被害拡大中です。
戦っていないけど四国上陸戦です。
チカちゃんと宗さまは青春アミーゴで。二人とも新しいもの珍しい物好きで。
苛めっ子宗さまといじめられっこチカちゃんです。
でも対島津限定で宗さまは乙女☆でございますよ。