犬も食わないアレの話
とりあえず、現在奥州筆頭が、九州の雄、島津義弘のもとに身をよせているのは知っていた。
身を寄せていると言うより、何ていうの、ぶっちゃけると、まあ同居のようなものだ(俺様的に同棲、などとは口が裂けても言わない、言いたくない)。
知りたくないからあえて深くは追求しないが、とにかくそういうことだ。
「でよー、一体なんなんだっつーの。」
喧嘩の原因は、と問う四国の鬼はヤンキーくさいが至極真面目な様子だ。
オトコ前な顔面にくっきりと煙管の跡を残しており、痛々しくもありおかしくもある。
加害者であるこれまた元祖ヤンキーな独眼龍の旦那はすっかり不貞腐れた様子だ。
どことなく可愛げあると、と思うのは気のせいだ。
何はともあれ、そんな仕打ちをされても、その相手の相談に乗ろうとする鬼の旦那は本当に人が良いと言うか。
まあ単にさっさと帰ってほしいだけかもしれないが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木騎。」
「あ?」
ぼそりと呟いた独眼龍の言葉を鬼の旦那は聞き取れなかったらしい。
「ザビー城にあった木騎。」
ああ、四国から奪ってきたっていうあのやたらとでかい、アレね。
確か姉川ににもあったけれど、製造元はやはり四国なんだろうか。
「ああ、俺の所から盗まれたやつな・・・・。」
そのときのことを思い出したのか、鬼の旦那の眉間に皺が寄った。
それはもう腸が煮えくり返るくらい腹立たしいのだろう。
奥州筆頭はそんな鬼の旦那に構うことなく不機嫌そうに吐き捨てた。
「島津の爺、俺があれ欲しいから壊すなっつったのに、ザビー城に突っ込んだとき、ぶっ壊したんだよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
俺は天井裏で、思わずその場に倒れ伏しそうになった。
何だ、それ。
深刻なのか何なのかものすごく判断につきかねるんだけど。
「あ?!島津の爺、アレをこわしやがったのか!?造るのに国一つ傾いたんだぞ?」
駄目だ。
この人もバカだ。
国一つ傾けるなよ。
「うるせー!!もともと盗まれるお前が悪いんだろうが!!!元親のくせに島津の爺を悪く言うな!!!オウムまで盗まれやがって!!だっせーんだよ!!!」
「!?オウムは盗まれてねーよ!!!」
突っ込むところはそこですが、鬼の旦那。
何なのこの人たち。
殿様って奴はどうしてこう、どいつもこいつもボケばっかりなんだ。
突込みが人手不足で俺は一体何人分突っ込み役だよ。
眼下では、いい年した地位も名誉も財力も家柄も武勇もある男二人が子供の喧嘩並みの低レベルな争いを繰り広げている。
情けなくて何だか涙が滲んできたよ。
いや、俺が情けなく思う理由なんてこれっぽっちも無いんだけどさあ。
もう、最近歳のせいで涙腺ゆるくなってきてるってのに。
何だか武田が懐かしいよ・・・・・・・・・・・・・・・。
旦那達は元気かなーまた襖蹴破ったり障子を破ったりおやつを食べ過ぎてご飯の残したりしていないだろうか。
「大体てめぇは事あるごとに暴力振るいやがって!!爺に愛想つかされるぞ!!」
「うるせぇ!言っとくがな、俺は爺に刀は向けたことがあっても手をあげたことはねぇ。」
・・・・・・・・・・・・どうなの、それ。
→後編
一言。
喧嘩の原因はわりとまともでした。結婚式を神前にするか教会にするかでもめたわけではありませぬ。
まあ喧嘩というか宗様が単にプチ家出中。
本当にうちの宗さまは爺様が大好きで仕方がない子ですね・・・・・・。