犬も食わないアレの話






 ある意味救世主はやってきた。
 ひょっとしたら何かの止めを刺しに来たのかもしれない。






 ぎゃーぎゃーと騒ぐ旦那達は気づいていないようだが、長宗我部の家臣が困惑したようにあるいは巻き込まれるのを畏れるように、入室をためらっていた。
 人としてその対応は非常に適切だと思うが、そうもいっていられない。
「元親様。」
 意を決したように取っ組み合い寸前の鬼の旦那に声をかける。
「あ!?」
 ぐるりと声のあがった方に勢いよく振り返り、凄む。

 どこのヤンキーだよ、あんたら。
 ガラ悪すぎ。

「九州の島津殿がお見えです。」
 ヤンキー二人に怯みつつも、生真面目そうな家臣はそう言伝えた。






「「爺が!!??」」















 北部の怪しい宗教団体を下したことにより、名実ともに九州の覇者となった島津義弘。
 鬼島津、といわしめる程の猛将であり、さらには政治上の駆け引きにも長けるという。
 果たして老獪さはうちの大将とどちらが上か。
 同じ老将といえど、武田の大将とちがい暑苦しさがなく、海の巌のような男という印象を受ける。
 大将同様に年寄りといえども侮れない、むしろ先ほどまで抜刀寸前で争っていた二人がただの若造に見える。
 や、実際若造なんだが。
 
 特に一人は一応十代だ、そういえば。
 
 島津の旦那は、独眼龍を見るなり日に焼けた厳つい顔を少しほころばせた。



・・・・・・・・・・・・・ああ、そうかよ、そうだよね、両想いだもんね。



 断じて羨ましくはないし、俺は自他共に認める女好きだ。
 けれど、何となくやってられるか、の気分に陥る。
 人は疲れているときに幸せそうな二人を見るとついむかついてしまうというアレだよ。
  



「おお、すまんかった、おいの政宗が世話になりもした!!」
「バッカ爺。世話になんかなってねえよ。」




 すげー・・・最初っから問答無用で所有格かよ、島津の旦那。
 しかも独眼龍の旦那、全然気に留めなてないよ!!
 「俺はものじゃない!!」かという伝家の宝刀的な突込みがあるかと思って覚悟していたのに、すでにその辺りは超越してるんだ!?


「おう。爺さん、夫婦喧嘩するのはいいが、あんまり巻き込まねーでくれよな。」
「まだ夫婦じゃねーっていってるだろーが!!!」
 MAGNUM!
 技名と供に繰り出された一撃を受け長宗我部の旦那の巨体が、襖を数枚破りながら吹き飛ばされる。
・・・・・・・・さすがはレベル20、六武器での固有技突っ込み。
 照れ隠しといえども半端じゃねー。
 容赦ない独眼龍も半端ないが、ある意味まったく止めない島津の旦那もすごい。
 ていうか嫁(独眼龍)の行動をまったく気にしていない。
 いろいろ大雑把なんだな、この人も。
 襖の奥に姿を消した四国の主をよそに、二人は会話をすすめていく。




「政宗。」
「なんだよ・・・・・・。」
「すまんかった。」
「・・・・・・・・・・・・・・あれ、マジで欲しかったんだからな。」
「むう。じゃっどんあやわいを傷つけもした。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・爺。」



 
 やばい。今幻聴がした。

 きゅんって。

 きゅんって音が聞こえた!!
 どうした忍の耳。
 さすがに他人の鼓動の音がこの距離で聞き取れるわけがないだろうがあ!!!
 っていうか、独眼龍の旦那がなんかおかしい。
 俺の耳もおかしいけど、独眼龍の旦那はさらにおかしい。
 耳を赤く染めてうつむくなよ、あんた。
 どこの乙女だよ。




「わいが怪我したんでつい我をわすれてしもた。」
「バカ・・・・・・・・・・・あんなのかすり傷だっつーの。」 



・・・・・・・・・・・ええっと、本当に俺の耳がやばくなってきた。
何か独眼龍の旦那の言葉が人間の言葉に聞こえなくなってきた。




「機嫌はよぉなりもしたか。」
「にゃん。(別に悪くねーよ、いちいちきくな。)」
「そしたなぁ、帰ろうか。」
「にゃんにゃん。(OK、今夜は眠らせねーぜ!!)」





 本気で耳がおかしい。
 独眼龍の言葉が「にゃんにゃん」言っている様にしかきこえない。
 どうなってるんだ、色々と。




 天井裏で苦悩する俺をよそに、座敷では歳の差バカップルがさんざんいちゃつき(やっぱり伊達の旦那の言葉はにゃんにゃんとしか聞こえない)。
 そして。
 壊れた襖の残骸から顔を覗かせた長宗我部の旦那に適当に挨拶して去って行った。

 なんともいいがたい何かと、ひたすら暴れまわるザビー人形、呆気に取られた長宗我部の旦那を残して。



 まあ一番のアレな独眼龍の旦那を連れて行ってくれただけで島津の旦那には感謝をささげるべきかもしれない・・・・。












「おい、田舎もん、いるんだろうが。」

 どうやらすっかりばれていたらしい。
 まあ途中からいろいろ何かを放棄していたから仕方がないかもしれないが。
 殺気はなく、どこか魂が抜けたような四国の鬼有様に、とりあえず、腹を括って座敷に降り立つ。
 長宗我部の旦那はコチラを振り返ることなく、ぼんやりと二人が去っていった方を見ていた。
「おい、田舎もん。」 
 まあ甲斐の山の中出身だからね、別に田舎者でいいけど。

 というか、もう何でもいい。

「何。鬼の旦那。」
「耳がおかしくなったかもしれねえ・・・・・・・・・・・。」
「え。」

「政宗の奴の言葉が全部「にゃんにゃん」言ってる様にしか聞こえなかった。」
 島津の爺の言葉は普通にわかるのに。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 あ、だめだ、涙が滲んできた。
 不覚だが。
 そっと目じりをぬぐう。
 ああ、よかった。
 本当によかった。



「俺だけじゃなかったんだ・・・・・・・・・・・・・・。」
「!?お前もか。」
 がっちりと思わず握手を交わす。
 そのとき、俺たちの心は一つだった。
 

 よかった、道連れがいた。





忍びの目にも涙。最近多め。当社比。







一言。
何でこれに3話分もついやしているのかわかりませんが。
最後の島津の爺様の前の宗様はきっと「にゃんにゃん」言ってるようにしか聞こえない、というのを書くためだったのに。笑
佐助とかチカちゃん、あと幸村にも「にゃんにゃん」と聞こえます。
でも島津の爺様とか信玄公とか毛利には普通に聞こえます。爆。
もう島伊達はどこまでもラブイチャで。