推定視力5.0






 今日も今日とて、忍び使いの荒い旦那方のおかげで、九州出張、いざ忍び参る。






 なんていうの、相変わらずザビー城はすごい。
 南蛮人の趣味というのは本当に俺らからすると常軌を逸しているというか。まあかの舶来ものにくわしい奥州筆頭も顔を引き攣らせ、かろうじて笑っていたから、南蛮人を全部あれと同一視するのは間違いなのかもしれないが。



「鬼島津の城攻めか。」
 九州南部、日本最南端の雄、島津義弘。
 普通の刀が玩具に見えるような巨大な刀をふるう豪快な爺様だ。
 うちのお館様といい、年寄りはあなどれないというか。
 迎えうつは自称愛の伝道師ザビー。
 何度か繰り返された小競り合いは、ここにきてようやく終結しようとしているらしい。
 最近、いろいろあったからなー・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 何は ともあれ、これで九州の覇者が決まるわけだ。







 眼下ではザビー教徒たち、立ちふさがる敵を、鬼島津の爺様が切るというよりもむしろ叩き潰している。
 もぐら叩き状態だ。あ、それは北の雪ん子か。
 さしもの南蛮兵器も歯が立たない。
 夜には絶対会いたくない不気味なからくりザビー人形が二体、火を吹いて崩れ落ちていた。
 やれやれ、やっと決戦か。
 いい加減、屋根にへばりついているから背中が熱い。
 いやいや、南国の陽射しは予想以上だね。(その迷彩服脱げよという案は却下だ。これは俺の忍びとしてのポリシーである。)





 決着はあっけないほどすんなり着いた。
 なんというか予想通り、島津の爺様の勝利である。
 「得意なのは伏兵戦術だけではないってことね。」
 智将にして戦国最強本多忠勝とわたりあう武勇の持ち主。
 やはり年寄りは(以下略)
 要注意、と。
 頭の中でこれまでの情報をまとめ上げ、旦那たちにどう報告するか、考える。

 「楽勝、楽勝!!」
 目線の先では島津の爺様がなんというか豪快に勝鬨をあげている。
 いや、本当にその言葉に偽りナシの勝ちっぷりだった。
 腰につけていた酒瓶を取り上げ、「これで美味い酒が飲める」などと言っている。仕事中酒は飲めない俺にはなんていうか目の毒だ。
 ばれないうちにそろそろ帰るかーと、考えながら、何気なくその様子を見ていた俺は、後に心底後悔することになる。




 
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」





鬼島津が美味そうにあおる酒瓶の底に、俺は見てしまった。
 不本意ながらも見慣れてしまった、それ。
 緑の竹雀。

「伊達家の、家紋・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」




 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいお。
 ちょっと待ってください。
 何で伊達の家紋入りの酒瓶を鬼島津が愛用してるんだよ、っていうか、何でこの距離からそんなものが見えるんだよ俺の目。忍びだからか。なんでもありだからか。ああもうどうしよう、どこから突っ込めばいいのか、ていうか突っ込む必要ないか・・。




 南国の空の下。
 なによりも視界に焼きついたのは、色鮮やかな熱帯の花でも、九州の覇者の姿でもなく。
 酒瓶に書かれた「手造り」の文字だった。
 
 





何が手造りなんですか。
誰の手造りなんですか。ていうかそれはやはりあの人ですよね。







忍びは見た。










一言。
島津が勝利時。「手造り」の文字を確認後、魚類友達に電話。
「あれは宗様の手造りだよね」
断言。









おまけ:「愛ユエニ」



「あのさ、伊達の旦那。」
「AH?」
 目の前の奥州筆頭はあいかわらずムヤミに態度がでかい。ついでに面倒くさそうだ。
それでも律儀に応えをよこすのは、育ちの良さだろうか。
「・・・・・・・・・・・・・・鬼島津の旦那が持ってるアレ・・・・・。」
「ああ、俺の手造り。」
「中身が?」
「BOTH。」
「?」
「両方とも。中身(酒)も外見(酒瓶)も俺の手造り。」

「・・・・・・・・・・・そうですか。」



書道華道茶道に香道まで嗜み、料理の腕も一級、歌も舞いも名高い奥州筆頭。
 ・・・・・・・・・・・・陶芸がスキルに加わったらしい。
 それはやはり、あの南蛮伝道師ではないが。
愛ユエニ