忍びの仕事







 人生相談したいけど、する相手がいない人。
 それが俺。





 周囲に恵まれていないということはないことはないことはない・・(何重否定?)。
 というか、相談ならばするよりされる方で、今までそれで困ったことなど本当にない、あるいはあったとしても思い出せないほど遠い昔のことだ。
 
 本当に、相談ならばよくされる。
 直属の上司からは数えあげたらキリが無いし、上司の上司からも相談されることしばしばだ。
 部下は言うに及ばず、さらには上司の兄やら、他国の殿様にも相談なのかなんなのか悩みをぶつけられることも出てきた。
 それってどうなの、と思いつつ、無下に出来ないのは性格だろう。
 まあ彼らの悩みの種が主に自分の上司だということもある。(悩みというより苦情ということもあるが)
 忍に、性格だの個性だの人間らしいものがあるなんて、という突込みが来るかもしれないが。
 忍の前に人間だか人間の前に忍だか、そんなことはわからないけど、感情は殺せてもやっぱり一人一人違う。
 ・・・・・・・一つ一つ違う、と言ってもいいが。
 
 って、話が少しだけずれたけどさ。
 ま、とにかく、長く生きていれば(といってもまだ二十代だが)俺にも悩みくらいは出て来るわけだよ。



 しかもやや人生について。
  


 きっかけは相変わらず俺の主で、というよりも真田の旦那のお供で奥州に訪れたことが発端だ。
 通いなれた甲斐から奥州へ向かう道は、そのまま冬に冬に向かい行く道だ。
 道が雪に閉ざされる前にお目にかかりたい、という旦那の願い。男しては、よくわかる。
 惚れた相手にはいついかなる時だって会いたいものだよ、うん。
 奥州筆頭はあいかわらず無駄に偉そうに、もてなしてくれ、ついでに真田の旦那も相変わらず独眼龍の姿を見るなり全力疾走していた。相変わらずの光景だ。
 そしてこれも変わらぬ光景だが、待て、を覚えろと伊達の旦那に怒られていた。
 絶対にこっちにも飛び火すると思っていたらとうとう「あんたも大変だな」と哀れむように言われ、少々衝撃だった。
 
 また話が少しずれたけど。
 とにかく、問題はその後、翌日のことだった。



「林檎が、足りねえ。」
 何だか可愛らしい一言が、可愛くない人から発せられた。(可愛い可愛くないというのは人による評価だが、「レッツパーティ、YA―HA!!」といって刀六本振り回して敵兵を切り刻んでいる独眼龍と可愛いなどと評せられる人はあまりいないと思う。そんな特殊系はうちの旦那くらいだろう。)
「はて?林檎がいかがされた?」
「たりねぇえんだよ。SHIT、林檎を甘く煮付けてケーキをつくるつもりだったのにな。」
 昨日、剥き過ぎたか。
 ああ、昨日の林檎はウサギの形でござったな。政宗殿は本当に手先がお器用でいらっしゃる。
 当たり前だ、俺を誰だと思っていやがる。奥州筆頭、伊達政宗だぞ。
 
 などという、どこからつっこめばいいのかわからない二人の会話にももう慣れ、とりあえず心の中で「奥州筆頭とウサギ形林檎がつくれる器用さは関係ないと思うよ」と呟くにとどめておいた。
 
 もちろん心の中で。
 これ重要。
 それこそ奥州筆頭相手におそろしくて正面からそんなことを突っ込めやしない。


「『けーき』、でござるか。先日頂戴した『かすていら』とは異なるものでござるか?」
「あ?まあ似たようなもんだな。アレよりもう少しやわらかくて、俺が作りたいのは林檎が入ってる奴だ、簡単に言えば。」
「それは、何やら美味そうでござるな。」
「ああ、美味いぞ。・・・・・・・・・つーか、その肝心の林檎がねーんだよな。」
 どうするか。
 林檎がなければ林檎ケーキにならないということで、不機嫌そうな奥州筆頭に、真田の旦那が珍しく考えこむこと暫し。
 何だか嫌な予感がするのは長年の勘という奴だろう。
 大体こういう時の真田の旦那の発想は予想だにしないことの方が多い。
 というか予想もしたくないことが多いんだよね。

「おお、それでは信濃から持ってこればよい。佐助。」
 名案だ、とでもういうような声とそれに呼ばれた自分の名前に意識が遠のきかける。
 
 何言い出すんだ、この人。
 
 というのと、あああ、やっぱり、という思いが複雑に絡みあう。
 こんな嫌なたぐいの予感は当ってほしくなかった。
ていうか、その「りんごのケーキ」とやらのために、今すぐこの奥州から信濃に行ってこいと?
 
 鬼ですか、あんた。

「あ?・・・・・・・・そうか、まあ取りにいかせればいいか。」
 
 鬼が二人だ。
 わかっちゃいたけどさ。

「そうでござろう。」
 珍しく素直に賛同の意を示した独眼龍の旦那に、真田の旦那は褒められたワンコのような様子だ。つまり尻尾があったならば盛大に振っている、あんな感じだ。
 褒めて褒めてと言わんばかりの仕草に、独眼龍の旦那も苦笑している。
「ああ。そうだな。」
 にっこりと微笑み(俺には悪魔の微笑にしか見えないが真田の旦那にはちがうものが見えるらしい。)行け、と無言で命じられる。



 ああああああああああああああああ。
 わかっちゃいたけどさ。




 忍びの仕事ってなんですか。







 少なくても、林檎をとりに奥州から信濃まで往復することでもないはずだ。
 ついでにいえば、主人の躾けをしたり、おやつに団子を買いに行くことじゃないはずだ。
 




 そのはずだよ、ね。






一言
サナダテ+忍が書きたかったのデス。
でも真田+伊達+忍・・・・・・。
いつかはきちんとダテサナを書きたい所存。もちろん忍は標準装備。