かすがも参りましたよ







「猿飛佐助、只今戻りました。」
「うむ、ご苦労であったな。」
「は。」
 心中でのみ「本当にな」と呟くが、それはあくまで心の声だ。
 にっこり笑顔で頭をたれる。
 やっと帰ってきたんだ。これで少しは仕事で負った心の疲労を癒したい。
 だが、その頭上を通った一言に、佐助は凍りついた。
「戻った早々にすまぬが、九州まで手紙を届けてくれい。」
「!!!!!???????」




 何いってやがるんだ、このオヤカタ様は????




 俺今四国から帰ってきたばかりなんですけどまた南まで行ってこいってのはどういうことですかというか用事があるならまとめていえよまたとんぼ返りかよ。






 いやですよ、と即答したいけど、所詮しがない雇われ忍にそんな選択権はなく。
「ちなみにどのような書状で。」
「うむ、実はお主が留守中に奥州まで忍の者に手紙を届けさせたのだが独眼龍は今島津義弘のもとに行っておるとのことでな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ。」


 つまりは独眼龍の旦那あての手紙かよ。
 逢いたくない人に会いに行かなければ行けないのね。
 出張は別にいいさ、まあ洗濯物がたまったり屋敷が小汚くなっていたり、旦那が団子を食べ過ぎていたりするくらいが問題なだけで。
 

 でもね、南は本当に勘弁して欲しいんですが。



「頼んだぞ、佐助。」
「は・・。」












 というわけでなんだかもうどうにでもなれなかんじで、いざ忍びまいる。
 帰りに元親の旦那のところにでも寄ってこようか。(苦労人同盟締結中)






























 今日はお館様の使いなので、正面から行けばよかったのかもしれないが、ついいつもの癖で天井裏に忍んでいる次第。
 職業病って奴ですかね。
 ちなみにここは島津の旦那の別宅である。
 島津の旦那はすでに息子に家督を譲っており、表向きは隠居という形になっている。
 そのため城から離れたところに新築した館に独眼龍の旦那と住んでいるのだ。
 まあ、何っていうの、愛の巣ってやつですか。あはは。(少々自虐傾向に走り勝ち)








 だが、今回は!!神は俺を見捨てていなかったと思った。
 忍び込んだ天井裏には先客が居た。
 たわわにゆれる乳、男ならば誰だって目が離せなくなるような、身体の輪郭もあらわな魅惑の衣装。
 雪のように白い肌にきらきらと輝く金髪。
 目にした瞬間、思わずカミサマ仏様サビー様ありがとうと万歳三唱したよ。

 地獄に仏、掃き溜めに鶴。
 
 あちらも俺にすぐに気がついたらしく、きりりと目元がつりあがったが、ここで騒ぎを起こすことはさすがに考えてはいならしく、いつものようにつっかかってはこなかった。
 じっとコチラの様子を伺うように、睨みつけてくる。
『武田の忍びが何用だ』
『まあ単なるおつかいだから気にしなくていいよ』
『ふざけるな、この・・・・』
 互いの唇の動きで、言葉を読み取りながら、じりじりと間合いを取る。
 そんなに喧嘩腰にならなくてもいいとは思うのだが。
 ここは武田領でもなく、上杉領でもなく、互いが命を賭す主君はいないわけだし。
 ついでに言えば、最南端の土地でたとえ戦相手になるとしても当分先のことだろうし。
『あのさ・・・・・』
『貴様の戯言など聴く耳持たぬわ』
 まさにばっさりと切り捨てる、情け容赦のないかすがの一言に少々凹みかけるが、それでもあの乳ですべてを帳消しに出来る。
 うん。




「何だよ、爺、いきなり黙り込んで・・・・」
 

 タイミングよくと言うか悪くというか、忍の耳に階下の会話が届いた。
 それはかすがも同様らしく、とりあえず二人して天板の隙間から様子をのぞく。
 座敷では九州の覇者島津義弘と歳の離れた恋人が絶賛いちゃつき中だったはずだ。
 だが。
 戸惑ったような伊達の旦那の声に俺は少し驚いた。
 あの人を食ったような笑みを常に浮かべた奥州筆頭のそんな声など、ついぞ聞いたことがない。
 大体島津の旦那以外は平気で足蹴にするような、可愛げの欠片もないどころか鬼のような御仁なのだ。
「なあ、爺。」
 途方にくれたような、独眼龍の声。
 そうしていると歳相応どころか幼い印象を受ける。
 どうしちまったんだ、俺の耳。
 だまされるな、俺様。
 相手はあの独眼龍だ。


「爺。」
「政宗。」
「何だよ。」
「いつになったらおいのこと名前で呼ぶね?」
「え・・・・・・・・・・・・・。」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?





「真田の倅や長宗我部のこつは名前で呼ぶと。おいは呼ばんね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・。」(きゅん)







 戸惑ったような独眼龍の旦那の乙女声が、遠のきかけた意識をつなぎとめた。
 毒をもって毒を制するというのか。
 やべえ。
 やばすぎる。
 ていうか島津の旦那、俺あんたのことは信じていたんだけど!!(何をだよ。)
 独眼龍はともかくとして、あんたまで!!
 俺もう、泣きたいよ。
 っていうかもう泣いてるよ、俺。







「名前ってことは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よしひろ・・・」(きゅんきゅん)









 なんでひらがなしゃべりなのさ。
 あんたは上杉謙信かよ。





 天井裏からでは、独眼龍の旦那や島津の旦那がどのような表情をうかべているかわからないが。
 そんなもの、見なくてもわかる。
 想像なんかする必要なし。
 お互いものすごく照れまくってイチャコライチャコラしてるんだろう。
 桃色吐息な甘ったるい空気がびしばし伝わってくるよ。
 ていうか体内の血中糖度がものすごく上がってる気がする。
 やばい。
 本当にやばい。
 この歳で、この若さで糖尿病は勘弁。




 何とかこの場から離れようと、身を起こすと、どこか呆然としたかすがが、いた。
 俺的には地獄に女神様だが、彼女は放心状態。
 さすがにイキナリこれは、かすがといえどもきつかったか・・・・。

『あのさ・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・恋人同士か・・・・・・。」
 ぽつりと甘やかな桜色の唇から吐息とこぼれた呟きに、動きを止めた。




 ちょっとまって。
 何この流れ。








「いつか私も・・・・・・・・・。」






 ちょっとまってってば!!!!(マジ泣き)
 切れ長の目を潤ませ、頬をばら色に染めるかすがはそりゃあ別嬪さんだが。
 



 ・・・・・・・・・・・・・・・・マジですか・・・・・・・?
 アレを乗り越えないと君との未来はないんですか?
















 猿飛佐助、痛恨の一撃をくらい、討ち死。
























一言。
あはー。名前よびー。
ちなみに佐助さんは乗り越えてもかすがさんとの未来は来ないので無駄な努力はしないほうがいいと思います。鬼。

政宗、かすがで乙女同盟。
政宗、幸村で男は50過ぎてから同盟。
政宗、まつで新妻同盟。
政宗様友達が増えましたな。

元親、佐助で被害者同盟。
佐助、哀れすぎ。