「むぅあさむね殿!!!!!」
 今日も今日とて暑苦しい真田の旦那のお供で奥州へいざ忍び参る。

 


 ちなみに本日は忍ぶ必要なし。
 なぜならば。


「まさむねどのぉー!!ぐっ!!」
 奥州に着き、奥州筆頭の姿を見るなり、駆け出す旦那。
 毎度のことでもういい加減飽き飽きしているのだが、とりあえず襟首を引っつかみ止める俺。
 旦那は半端でなく猪突猛進なので、止める方も引きずられまいと力が要る。
 もういっそのこと金縛りの術でもかけてやろうかと思うことさえある。
「佐助、ぐるじいでござる・・・!!」
「はーい、なら少し落ち着きましょうね、旦那。」
 これも何度か繰り返されている遣り取りだ。
 いつもなら、ここらで伊達の旦那がなんらかの突っ込みなりなんなり反応を返すのだが。
 今回は違った。
 鬼のように不機嫌そうな、伊達の旦那はこちらをちらりと見ただけで、むっつりと黙り込んでいる。
 立ち上る苛立ちは先日真田の旦那にお気に入りの茶碗を割られた時を越える。
 ここで刺激したら、問答無用でBASARA技発動だろう。
 冗談じゃねぇ。
「政宗殿?いかがなされた?」
「AH?何でもねーよ。」
 何でもありますよ、絶対。


「話せば長くなりますが。」
「うぉ!・・か、片倉殿。いつからそこに?」

 
 ・・・・・・・・・・・真田の旦那が驚くのも無理は無いかもしれない。
 俺でさえも、かなり近づかれてから片倉殿の気配を悟る始末だ。
 こういっては失礼かもしれないが、武将にしておくのが惜しいくらいの気配の殺しっぷりだ。
 もういっそうちの隊に(真田忍隊)にスカウトしたいくらいだよ、マジで。
 片倉殿は常時装備の穏やかな人畜無害系の微笑を浮かべ、お久しぶりです真田殿と挨拶などをし、旦那もつられて姿勢を正し、頭を下げている。
 一人で不機嫌そうな顔でそっぽをむいているのは伊達の旦那だ。
 大人気ない。
 たいへんに大人気ない。
 まあ大人気ないのはいつものことだが。
 とりあえず誰かどうにかしてくれないだろうか。このままでは巡り巡って最終的にとばっちりを食うのは俺である。
 そうなった場合に、いかに迅速に逃亡し被害を回避すればいいのか、考える俺の隣で真田の旦那が片倉の旦那に、尋ねた。
「それで、片倉殿、政宗殿は・・・・・」
「ええ、それが、先日三方ヶ原の戦いをご覧になられて。」
「三方ヶ原というと、徳川ですね。」
「ええ。そこで本多忠勝殿の戦いぶりをご覧になり」
 戦国最強、本多忠勝か。
 奥州と違って、武田は国境を接しているから、徳川の動向には常に目を光らせている。主に俺が。



「殿は本多殿の製造元を調べて来いと駄々をこねられて。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・製造元って。」


 
 何ですか、それ。
 ていうか別に話長くないですよ、片倉殿。

 

 脳裏にガショーンガショーンと轟音をたてながら戦場を駆ける戦国最強の武人の姿がよぎる。
 いや、アレだけど、確かにアレだけど。
 特大の溜息を吐く片倉殿に、思わず俺がつっこむ。
「・・本田殿は一応ぎりぎり人間のハズですが。」
「ええ。ですが殿は絶対からくり人形(ロボット)だと。製造元がわからなければ本体を奪いに行くとおっしゃられて。」
「はあ。」
「家臣団には反対され、『ストライキだ』と申され、コチラに引きこもりになり。」
 おかげで伊達三傑は不眠不休らしい。
 何でそんなわけのわからない駄々をこねているんだ、この殿様は。
 あんぐりと口をあけたまま、俺と真田の旦那はそろって視線を独眼龍の旦那に向ける。
「なんだよ。」
 いや、なんだよと言われても困りますが。
 ねぇと同意を求めるように、旦那のほうを見ると。
「ちょ・・旦那?!」
 真田の旦那は、拳を握り締めて肩を震わせていた。
 何で?
 何怒ってるのさ?
「・・・・・・・・政宗殿は、本田殿のような方がお好みか?」

 

「「は?」」



 目がマジだ。やばいくらいに真剣だ。

 さすが真田の旦那。
 おもしれぇ、なんて言っている場合ではない。
 というより、最近そんなこと言っていられる余裕がない。
 ていうか、そこが問題なのか、旦那。
 とりあえず何でもいいからなだめないと。
「政宗殿!!」
「旦那、とりあえず落ち着いて、ていうか本田殿は人間じゃないから!!」
 さっきと言っていることが逆だ、自分。
「政宗殿!!」
 悲痛な旦那の叫びに(なんでだよああもうどうでもいいよ)、伊達の旦那は真顔で答える。


「何言ってやがる。本田(大きくて強いロボット)は男の夢だ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 勘弁してください。
 ていうかもう帰りたい。



「男の、ゆめ・・・・・・・。」
 

 呆然とした真田の旦那の声。
 やべぇ。嫌な予感しかしない。
 これより悪くなるのか、この状況とこの人たちの頭。



「・・・・・・・わかりもうした。」



 何が。



「某、政宗殿のため、本多殿のような男になります!!」
「は?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って何言ってるの旦那!!」
 どさくさに紛れて奥州筆頭にそう告げる真田の旦那の目は、決意と希望にきらめいていた。
 
『男の夢』。

 顔中にそう書かれている。
「行くぞ佐助!!三河に行って修行するのだ!!うおおおおお見ていて下され御館さまああああ!!!!」
 奥州筆頭に一礼して走り去る真田の旦那。
 ああああああああああああああああああああああああああああ。
 何でそうなるんよていうか修行って何するんだよ本多忠勝になるってどういうことよっていうか俺も行くの三河まで。
 隣にいた片倉殿がものすごい勢いで謝ってくる。
 いい人だなー・・・・・・・・。
「いえあれはさなだのだんながああいうひとなので・・・・・・・・・。」
「猿飛殿っ!しっかりなさってください!」
 やばい、意識が遠のきかけたらしい。
 とりあえずこれ以上(これ以上があるのかは謎だが)暴走されるのは御免だ。
 何はなくとも、身柄の確保が最優先である。
「とりあえずおいかけます。」
 お互いの目の端にきらりと光るものをみつけ、そっと頭を下げる。



「真田が本多・・・・・・・・・・・・?そいつはちょっといいかもしれない・・・・。」
「まさむねさまああ!?」
 立ち去る間際に聞こえた伊達主従の会話は聞かなかったことにする。



俺と片倉殿、どっちがマシなんだろう・・・・・・・・・・・。






忍びは見た。








三河にて。

「本多忠勝殿!!!!!!某を養子にしてくだされ!!!!!!」
「は?」
 何でそうなる。
 ていうか。


・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごますり棒装備中だっけ?




一言。
サナダテ前提・・・・・・・・・・・・。
大きくて強いロボットは男の子の夢です(断言)。
うちの宗様と元親はロボットについて語り合う仲です。